砂時計
どんな話?
植草杏は12歳の冬、離婚した母・美和子に連れられて、実家のある島根へ転校します。 ようやく田舎暮らしに慣れ始めた頃、美和子は杏を残して自殺してしまいます。
苦悩する杏を支えたのは、島根で出会った初恋の相手・北村大悟と、地元の名士の子・月島藤、椎香の兄妹。 時は止まることなく、それぞれが変わっていきます。 それでも杏の心の奥には、いつも美和子の影がつきまとい続けます。
昼ドラにもなった作品で、あらすじだけを見ると、いかにもそちら向きの重い物語です。
暗いだけの漫画ではありません
のっけから母親の自殺という重い出来事が起こります。 生きていくことに疲れて、ふっといなくなってしまう母親は、トラウマの原因として十分です。 杏はその後、好きな人を急に振ってしまったり、自殺未遂をしたりと、心の不安定さを見せるようになります。
それでも、読んでいて暗すぎないのは、主人公の杏がちょっとおバカなキャラクターであることと、 まわりを取り囲む人たちが妙に前向きなことが大きいと思います。
杏の人生を追う物語
物語は、杏の十数年の人生を追っていきます。 幼なじみの4人は男女2人ずつで、杏←藤、大悟←椎香という、規定路線ともいえる恋模様。 大悟との初めての恋愛と別れ、エリート商社マンとの婚約、そして婚約破棄……。
それだけの年月が語られても急ぎ足に感じないのは、ずっと杏の心の動きに焦点が合っているからでしょう。 母の影に追われながら、それでも幸せを求めて、もがいて、苦しんで、そしてたどり着いた答えは? 生きることの意味を、一人の女性の人生を通して描いた作品です。
心に残るセリフ
セリフが印象的なのも、この作品の魅力のひとつです。中でも心に残ったものを紹介します。
なんで、大切なものは一つじゃないんだろう
――芦原妃名子『砂時計』より
作中では恋愛と親を指したセリフですが、天秤にかけて、一つしか選べないことは数多くあります。 人によって思い浮かべる場面は違っても、共感を呼ぶセリフだと思います。
恋愛船の定員はジャスト2名
――芦原妃名子『砂時計』より
「余計なもの」とは、男女の友情のことのようです。難しい問題ですが、よくある話をうまく言ったものだと思いました。
お前を幸せにするのは、お前自身
――芦原妃名子『砂時計』より
何を幸せに感じるかは人それぞれ。誰かが幸せにしてくれるのを待っているだけでは、幸せにはなれません。 自分の幸せを人に預けてしまいがちな人に、ぜひ贈りたい言葉です。
今の自分は、あの想い出と、あの想い出と、あの想い出で出来ている
――芦原妃名子『砂時計』より
タイトル「砂時計」に込められたもの
タイトルの「砂時計」は、舞台である島根県の仁摩サンドミュージアムのおみやげです。 そこでは、1年ごとに時が刻まれます。
砂時計が積もっていく砂で時を数えるように、人も、思い出を積み重ねて生きていきます。 楽しいことも、辛いことも、すべてが今の自分をつくっていく。 『砂時計』は、そう語りかけてくるような作品です。
『砂時計』を読む
漫画全巻ドットコムで購入できます